2003/03/04 炭素材料協会複合材料セミナー講演内容

水処理・生物飼育における炭素繊維の活用の実施例

前橋工科大学 建設工学科 助教授 梅津 剛

[URL] http://spokon.net/

 

1.はじめに

前橋工科大学建設工学科梅津研究室では、排水処理施設、小規模湖沼の浄化、ビオトープ、屋上緑化、壁緑化、沿岸域における人工漁礁、淡水魚・海水魚の養殖、海藻・海草の苗場造成などの問題に対する具体的な装置の開発と構築手法の研究を行っている。

当研究室において、平成94月より開始されたこの水環境問題に対する研究活動は、まさに炭素繊維との出会いから始まった。浮遊物による濁りの除去、透視度の著しい向上、膨大量の活性汚泥の付着と固着現象、様々な生物の産卵床としての効果、そうした実例から当初は、あたかも魔法の繊維として、この特殊な水中濾材を手にしたかのように感じられたものである。実際には、その劇的効果と共に、余りにも従来の濾材と異なる性質と、炭素繊維特有の欠点により、従来の水処理装置、反応槽には直接用いることが難しいものであることが明らかになった。繊維抜けや折れによる損傷は、極細で長いゴミとなって循環用ポンプなどに絡まる。スクリーンやフィルターには引っかかって目詰まりを招く。固形物タイプの濾材でないため、フレームに取り付けたり編んだりするという加工を必要とする。そして、その障害を回避する作業、工作や装置の構造は全てコストに反映し、非現実的な価格となってしまうのである。

多くの研究者、企業が炭素繊維を水中濾材として製品化しようとしたが、さしたる効果を挙げていない様に感じられる。水中濾材として、材料として従来の装置に用いるのは、注意点が多すぎることが、その一つの原因であるし、またそれを解決しようとすると、水中濾材としては想像し得ない価格となるのである。

しかし、それでも炭素繊維は、濾材や水環境改善に使用される材料として、すばらしい効果をもつことには間違いない。本研究室が行ってきた実証実験と、装置の開発は、実用性や製品化としての可能性を追求するものであり、学術研究的な要素はほとんど含んでいない。ビーカー実験的に何らかの効果を解明したとしても、屋外環境での適用や排水処理などでは、そのままの効果を長期的に得ることは不可能である。特に、炭素繊維がなぜ生物親和性が高いのか、などという事象に対する解明は全く行っていない。それよりも、その効果をいかに実用的に用いるべきか、水処理装置として、炭素繊維を用いることを前提として装置を設計する場合、どのような点に注意しなければならないのか、屋外環境では、自然界の動物・植物と炭素繊維はどのように関わりあうのか、耐用年数、強度、効率的使用量、経済性、メンテナンス方法などを研究テーマとして実施してきたものである。

発表においては、本研究室が実施してきた5年間にわたる炭素繊維の実施例の幾つかを示し、考察と知見について述べるものである。ここでは概要を記載するに留める。

 

2.ストランド炭素繊維水中濾材の効果

 炭素繊維自体が水を浄化するのではない。水環境問題の中において、濾材は場の形成に使用されるものである。排水処理における主役は、常に微生物塊である。排水処理における濾材に求められる基本性能は、この生物膜を形成しその剥離が生じにくく、水流循環を妨げない空間を常に形成することにある。この意味で、ストランド炭素繊維は、容積1L当たり1kgの活性汚泥を固着させるという極めて特殊な素材であり、注目されてきた。

 しかし、よりこの炭素繊維が効果を発揮する場は、湖沼、海洋沿岸域などにおける生物環境創出場の生成にあると考える。

 炭素繊維を水環境内に用いる効果は次の5つを挙げることができる。

l         物理濾過:水中の浮遊物を付着させ透視度を向上させる。

l         生物化学濾過:付着した微生物の摂食効果によりアンモニア態窒素や有機物が分解される。

l         魚介類、その他水中生物の産卵床:定着型の産卵を行うほとんどの小生物の産卵床となる。

l         水中生物の隠れ家:炭素繊維で形成された水中の隙間は、稚魚などの隠れ家となる。

l         稚魚などの餌場:付着した微生物はそのまま、他の小生物の餌となる。即ち、食物連鎖を形成する上での生物ベースを形成する。

 この基本性能を考慮し、池水浄化、淡水魚・海水魚の密集飼育、養殖装置、脱窒素装置、下水処理装置、などを行い、平成14年度は洗濯排水処理装置を製作し1年間に渡り実際のクリーニング店で実証実験を行っている。ただし、その装置システム全体において炭素繊維の役割は極一部にしか過ぎない。実用装置にとって材料は最も効果的なところに、必要量だけが配置されるものである。

 

3.水環境問題に対する炭素繊維フェルト材の活用

 面を構成する炭素繊維製品としてフェルト材がある。ストランド炭素繊維は主として水中に充填する目的で用いられるが、炭素繊維フェルト材は、水中空間の充填、そして、極めて重要な場である水際領域の部分に用いられる。

水環境問題にとって、淡水、海水にかぎらず、水際領域に生物生存環境が構築されていることは余りにも重要である。多くの生物は水際に産卵し、微生物から始まる生態系が確立される場である。面を構成する、または空間を充填する材料として、炭素繊維フェルト材は生物生存環境を主体とした場の形成を行うことが可能である。

この利用方法は、排水処理や室内での養殖装置にたいして用いられる場合と、屋外で、自然環境の中に置かれる場合とでは、大きく異なる。ストランド繊維の場合にも当てはまるが、屋内での利用については、交換する、洗浄して再利用する、といったメンテナンスを考慮するが、屋外では、交換・洗浄といったメンテナンスは考えない。そのまま、炭素繊維は自然の中に順応して、石や泥の中にまみれて存在させることを考える必要がある。室内ビオトープへの炭素繊維の応用は、この利用方法に属する。

炭素繊維フェルト材を水中で用いる際には、その種類によっては水中になかなか沈まない。親水性が弱いのである。ストランド炭素繊維では水溶性サイジング材が開発されたように、炭素繊維フェルト材を水中で用いる際には、親水性処理を行い、新品でも水になじむ特性が必要である。当研究室では、このことに対する対処法も確立している。

炭素繊維フェルト材は、面に垂直に水を通そうとすると、まるでだめである。しかし物理濾過能力は設置方法に応じて極めて高い効果を発揮する。炭素繊維フェルト材は、各社様々な工法で製品化されていて、その種類は一つではない。この数年間、本研究室で用いているフェルト材はその中の一種類のみである。

炭素繊維フェルト材は、面を構成し、さらにそれを重ねて使用することにより、体積の充填を可能とする。例えば蛍を飼育する装置では、このフェルト材を用いて、わずか数ミリの糸くずのような孵化直後の幼虫を水流から守り、水質維持としての濾材と陸と産卵場としての役割という様々な機能を持たせることによって、その利用価値を高めている。

また、陸上海水魚の飼育装置では、好気処理における利用として、定期的に洗浄する物理濾過機能と生物化学濾過機能を合わせた使用も行っている。また、ビオトープの形成としては、最も重要な場である水際領域を形成するものとして、限定した領域で使用し、コスト面を考慮した適用法を開発している。屋上緑化、壁緑化においても、その利用がさまざまに考えられ、実験を実施している。

 

4.おわりに

 電気伝導性の高い炭素繊維は電気製品にとって脅威である。特にストランド炭素繊維の製品化は、この点に極力注意を置かなくてはならない。

毛管現象は新品ならばそれなりの成果をもたらすが、直に目詰まりする。ほとんどの炭素繊維フェルト材は想像したよりも水吸い上げることはない。しかし、ある日数は毛管現象が顕著に生じる性質を知ることによって、それを環境問題に応用することが可能である。これが図-9に示される例である。

高濃度の活性汚泥に用いれば多量の微生物塊を固着させるが、それは水処理においては欠点ともなる。初期における効果は期待せず、長期間継続可能な効果に期待し、末期的症状となった際のメンテナンス方法をあらかじめ定めておくことにより、炭素繊維は初めて実用的利用方法が確立されると感じた。

野外に用いる場合には、いかなる生物がどのような振る舞いをするのかを十分に想像する必要がある。魚類は絡まって死ぬ場合がある。鳥類がフェルト材をむしり、あっという間にぼろぼろにする。沿岸域に設置すればフレームごと海流で流さる。もしくは、フレームだけが残る。生物が周囲を覆うことにより重量が数十倍にも増大し、その重みによって装置は破壊する。長期的視野に立ち、強度維持に対する考察は十分過ぎるほど考えなければならない。

 水環境問題における炭素繊維は、ちょっとしたアイデアで使用され、ちょとした実験実施によって見放されることが多いとも感じる。それだけ、他の濾材と性質が異なるのである。体積を充填する効果が極めて高く、そして水量を減らさない、これは、装置規模を縮小できる性質である。腐食せず熱変化に強い、これは自然界における長期間の耐用を期待させる。炭素繊維には、微生物がまとわりつき、小生物が集まり、産卵場となる。この生物親和性の高さは、本研究室の研究主旨である微生物からの生態系の構築と、食物連鎖の形成にとって、いかに扱いにくく高額なる材料であるとしても、積極的に用いるべきものとなっている。

 以上