[特別版 水理学シリーズ 目次]

【 水 理 学 第14回】(08.10.02)



「うわっっと、いきなり写真ですね。・・・あ、これ流しの水だ・・・・」

そうです。実によくある光景ですね。

この写真の中に、開水路流れを2分するものすごく違いのある流れが存在しています。

「上からスジで流れる水道水と、流し台に広がる水の流れですか?」

いえ、

2つとも流しのステンレス上の流れです。

落下した水は、まず水膜が張るように流れていますね。

「ええ。すごく薄そう・・・指を入れると・・・おお!水が跳ねる。速く流れてるんだ・・・」
 

その水膜は放射状に広がって・・・・円形になってますね。
 

そして水膜の外側の流れは、波うっていますね。

「はぃ。・・・あー水が流れてるな〜って解る状態です。指入れても・・・水は跳ねません。
 

お解かりいただけましたか?これが開水路流れを2分する、2種類の流れなのです。


「どんな違いがあるの?」
 

見た目で・・・流速を比較すると、どうなっていますか?
 

「水膜の方は、浅いけれどすごく速いみたい。・・・

外側はそれに比べれば遅いけれど、水深はちょこっと深い。」
 

すばらしい。その通りです。

「それでいいの?その違いだけ?」
 

いえ、もっとはっきりとした、違いがあります。


ここで、これまた便利な式をご紹介。
 

水の波の伝わる速さ、を計算する式です。

「波の伝わる速さ?へー・・・」

ただし、その波は、長波であることが前提です。
 

「なんですか?長波っていうのは?長い波・・・・ナニが長いの?」
 

波には縦波と横波があり、縦波は別名、粗密波と呼ばれます。

例えば音が空気や水を伝わっていく波は、粗密波、縦波です。

伝わる方向と同じ方向に空気が振動して、縦波が発生し、その振動が鼓膜を刺激して音を感じます。

「はぁ・・・縦波ね。地震のとき最初に感じる揺れですね。」
 

一方横波は、電線が揺れていたり煙突が揺れていたり・・・・そして水面に波が立つ・・・

その波です。水理学で波といったら、水面で見える波。

水面の波は横波です。
 

「解りました。それで?長波とはなんですか?」

波長の長い波です。

波は 波長 と 波高 と 周期 の3つで構成されます。

長波というのは、波長の長い〜波というものです。その長さの比較は、水深。

「波長が・・・水深よりも、ずっと長い波が長波ですか。」

そうです。

しかし、水の長波では、もう一つ、それよりも重要な定義があります。

「はぃはぃ?」

長波とは、水底から水面まで影響する波のことです。

「ハ?は?波(ハ)?」

水面波と呼ばれる、風が原因で起こる普通の波は、水面付近の水が上下左右にくるくる動いているだけで、

深い水の底には全く影響しません。

ところが、

海底が突然隆起陥没して、その影響で広い範囲にできる波は・・・・

「そ、それって・・・・つ つ 津波・・・」

そう。津波は海底の地形変化。当然、底から水面まで動いて発生した波です。

波長は数十キロメートルから数百キロメートルにもなります。

従って、津波は みごとな 長波なのです。

「はぁ・・・今日は海の水理学のはなしですか?」
 

いえ、開水路の話なんですが・・・今日は津波の話になりますね。

開水路流れは、水深が浅いので、発生する波は長波であることが多いのです。
 

「さぁ、じゃ便利な式の登場ですね。」

【長波の伝播速度 波速 を表す式】

波速 c としましょう。小文字の c です。

c = √( g h ) = (  g ×h ) 1/2

c : 長波の波速 m/s

g :  重力加速度 m/s2

 h : 水深 m

です。簡単でしょう?

「はぁ・・・簡単ですね。g は 9.8m/s2 でいいんですね。」

いいです。

「h は水深ですが・・・・波高を含めるんですか?それとも平均値?」

水深は、波が立ってない場合の水深。まぁ、平均値でもいいです。

じゃ、計算してみましょう。
 

津波の伝播速度!です。

「ぅへー・・・でかい話ですね。」

水深1,000mの海底で、地殻変動によって津波が生じました。その波高はたったの0.1m

「え?10cm?ちっさい津波だなぁ・・・つまんなぃ。」
 

この津波が水深1,000の海原を伝わる速さはいくらになりますか?
 

c= (  g × h )1/2 = ( 9.8×1,000)1/2 = 99.0m/s
 

秒速約100m。5.92km/min。時速では・・・なんと!356.4km/h。
 

「うっそ〜時速360km!?・・・速い・・・新幹線よりも速い。原子力潜水艦でも逃げられない。

水ってそんなに速く流れないんじゃないんですか?変ですよ。」
 

流れていません。水は、上下と左右にちょこっと動くだけ。
 

波は、”エネルギーの伝播”です。

水分子そのものが 旅する流れではないのです。

水を媒体として、エネルギーが伝わっていくのです。すごい速さで。
 

「ひゃー。津波の伝わる速さは あなどれませんね・・・。でも・・・たった10cmの津波だからね〜」
 

水塊はほとんど動くことなく、津波はエネルギーを高速で伝えていきます。

そうすると、粘性力も小さく エネルギーは減らない。

「まぁ、そうでしょうね。粘性力は流速差に比例しますから・・・水がほとんど動いてないんじゃね。」
 

そうすると、津波のエネルギーは長距離を伝わっても、あまり減りません。
 

大規模な地殻変動によって膨大莫大なエネルギーを得た津波。

わずか10cmの波高とはいえ、極めて広域で、周期も長い長い波。
 

津波が大海を高速で伝播して・・・いよいよ、陸が近づいてきました。
 

でも、波高10cmですょ。どーでもいいじゃん。ちゃ〜ぷ〜てなもんでしょ。」
 

陸に近づくと、水深は段々浅くなってきますよね。
 

「おぅ、もっといいネェ。これでゆっくりになりますね。波速は√(gh) なんだから。」
 

そう、波速が減速しています・・・。でもエネルギーはちょっとしか減っていないとしたら?
 

「へ? どゆこと? 遅くなるのに?エネルギーが減っていなぃ・・・??」
 

波速は落ちたけど・・・もし、それがほかのエネルギーに変わってしまうとしたら・・・・
 

「ほかのエネルギーに変わる?・・・それって・・・もしかして・・・すいしん?」

そうです。

陸付近で水深が浅くなってしまうと、波速が落ちます。

そのエネルギーの一部が、圧力に変換されていきます。

その圧力というのは、

「つまり水圧 p=ρgh だし。 圧力が増せば水深が増す
 

そうです。たった10cmの津波、しかし・・徐々に浅くなるごとに、

そして浅くなるごとに でっかいでっかい波に変貌するのです。

ほーらぁ!!きたきたきたぁ!

ほぉぉぉぉぉぉ らぁぁぁぁぁぁ・・・・・・キター!!!!

「きゃ〜」

ざっばぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ〜〜〜
 

「ひーぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ・・・・・
 

ねーいつ終わるの?この津波。(もう冷静)
 

ぁぁぁぁぁぁぁぁぁ・・・・・・・・んんんんんん・・・・・
 

長い!実に長い時間押し寄せる波となります。

津波は、周期もズン長い。ちゃぷちゃぷいう水面波とは桁違い。
 

海岸に押し寄せ・・・押し寄せ・・・・何分間、何十分間ものあいだ、

休み無く水が押し寄せることになってしまいます。

その水量の凄まじいこと。波を浴びるというよりは、大洪水が町を洗い流すかのよう。
 

「つ・・・津波って、化けるんだね。化け物だ。」

そうです。長波自体は、陸が近づくと流速を落としますが

本当に浅くなってくると、もう長波ではなくなります。

でも、そんなことお構いなし。水平方向に進行する慣性力だっぷりの水の巨大な固まりは、

もう波なんかではなくて、陸では洪水流れと同じ、

どばぁーーーーーーーーーっと大量に長時間押し寄せるのです。
 

数十キロメートルの波長を持つ津波です。

その波長に比べれば沿岸域の陸地100m程度などは、ちょっとのちょっと。

建物にぶつかり、斜面を遡り、自動車電車を洗い流し、

木をなぎ倒し、陸地をずっぽり水中に沈め、

そして全部のエネルギーの無くなる果てまで・・・・つなみるのです。

「つなみるんですね。」
 

普通の砂浜で見られるザッパンザッパンのおっきな波とはワケが違う

ということを、ご理解いただけましたでしょうか。
 

「わっわかりました・・・津波の恐ろしさ。そして波速について。

今日は もう いいです・・・。うなされて寝る。

ェ、そぅ?  まだまだ話は続くのに・・・・



 【そこで一言】

長波!その代表選手は津波

津波は英語でも TSUNAMI

その伝播速度は

c =  √ ( g h )

開水路の流れとかかわり深い速さです。



波速と水路の流れのかかわりは

 第15話 

跳ねる水

につづく。


 
Editor (oo)Tsuyoshi UMETSU Ph.D.
Associate Professor 
Maebashi IInstitute of Technoloy